【最長片道切符の旅#9】東北・日本海の絶景路線、五能線・羽越本線をひたすら乗車していく
最長片道切符の旅9日目。本日は2023年4月4日(火)。青森県・弘前駅から旅を再開していきます。
(最長片道切符の旅の概要はこちらからご覧ください)
この日の旅程は以下の通りとなります。
【旅程: 最長片道切符の旅9日目】
■ 弘前駅(6:47発)
↓ 五能線・快速
■ 東能代駅(10:37着/10:56発)
↓ 奥羽本線・特急つがる2号
■ 秋田駅(11:45着/12:07発)
↓ 羽越本線・普通
■ 酒田駅(13:59着/14:41発)
↓ 羽越本線・特急いなほ10号
■ 村上駅(16:01着)
移動距離は422.5km。昨日の移動距離の約5倍となります。なんと青森県から秋田県・山形県を通り抜けて新潟県まで行くという大移動日です。本日の途中下車はなく、ひたすら乗り鉄に専念します。というのも、うまいことダイヤがつながっていること、観光済みでない、かつ、本日素通りする山形県と新潟県についてはいずれも後日、ルートの関係で戻る(戻らざるをえない)予定があるので、途中下車をしなくとも問題ないという判断です。
【6:47発/10:37着】 とにかく映える路線、五能線で東能代へ
早朝、お世話になったホテル、「津軽の宿 弘前屋」さんを出ていきます。このホテル、とても良いところで、宿のご主人の方が親切で、設備も細かいところまで気が利いているのです。そういうところに限ってチェックアウト日が早かったりするのです。今回は素泊まりでしたが、朝出るときも「早いですね。コーヒーでも飲んでいきますか?」と一声かけてくださったのですが、時間がなく丁重にお断りさせていただきました。次回もまたお世話になりたいです(昨日の記事で簡単にレビューを書いています。気になる方はこちらまで)。
さて、弘前駅から移動を始めていきます。まずは五能線経由で東能代へ向かいます。五能線といえば、東日本エリアでも日本海の絶景が見える車窓の良いローカル線として知られています。乗車するのは五能線経由の快速東能代行き。快速というと、「リゾートしらかみ」号を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回は普通の定期列車での移動です。「リゾートしらかみ」号は五能線の醍醐味のひとつではあるのですが、シーズンが限られており、この時期は運行日でないとおぼろげながら把握していたためです。五能線を南下する際は車窓右側に日本海が見えますが、途中の川部で進行方向が変わるので、弘前でボックスシートを取る際は進行方向左側の席を取ることになります。
途中の川部までは奥羽本線を通り、進行方向を変えて五能線へ入ります。弘前から五所川原駅付近まで、車窓左手に断続的に岩木山が見えてきます。富士山のように裾野が広く、形が整っています。そして、沿線にはりんごの木を多く見ることができます。この時期は4月の初めで何も成っていませんが、秋にまた訪れて身をつけたりんごの木を見てみたいものです。
五所川原に近づくと学生さんを中心に立ち客が出るほど(列車は2両編成)の乗客がありましたが、五所川原でほとんどが下車していきました。五能線では全線単線のため、五所川原では27分の停車時間があり、他の駅でも何回か数分間の停車をしながら東能代方面へと進んでいきます。
五所川原で学生さんを中心に乗車がありましたが、木造駅で学生さんは(恐らく)全員が降り、列車はがらがらに。ほとんどは観光客が残るのみとなりました。木造駅のあるつがる市は遮光器土偶が市内の遺跡から出土したことに由来し、この駅の駅舎には巨大な遮光器土偶が張り付けられています。さらに目の部分は七色に光るようです。その光景は見たことありませんが、想像する限りちょっと不気味な気がします。列車からはその様子を見ることができませんが、見てみたいような見て見たくないような。。。
鯵ヶ沢駅近くまで差し掛かると車窓右手には日本海が広がります。また、海が見え始めるポイントで、秋田犬「わさお」で有名だった「きくや商店」が一瞬見えます。いまでは「わさお」とその飼い主の女将さんは亡くなってしまいましたが、跡継ぎの看板犬、「ちょめ」が活躍しており、お店はいまでも盛況のようです。
列車は鯵ヶ沢駅へ到着。この列車は快速ですが、鯵ヶ沢までは各駅に停車し、ここから駅を通過しはじめます。この列車、名実ともに快速らしい走り方をし、停車駅は北金ヶ沢、千畳敷、深浦、ウェスパ椿山、十二湖、岩館、あきた白神、能代。北金ケ沢駅の停車を除けばリゾートしらかみ号とほとんど変わらず、主要駅や観光地の最寄駅に絞られます。
鯵ヶ沢駅を過ぎると断続的に日本海の景色が見えてきます。特に千畳敷駅付近に広がる千畳敷は見ておきたいところ。江戸時代の地震で隆起してできた奇岩が眼前に広がり、日本海の荒々しさを伝えます。中には平らな箇所も存在し、津軽藩の殿様がそこに千畳の畳を敷いて大宴会を開いたことが由来し、「千畳敷」と名付けられたようです。そして、そのような殿様ゆかりの土地柄、一般の人間は近づくこともできなかったのだとか。
また、海上に岩が聳え立つ景色が見られる広戸・深浦駅間。この辺りは行合崎海岸と呼ばれ、リゾートしらかみ号のビューポイントにもなっているようです。また、高台から海を見下ろせる大間越・岩館駅間も個人的なおすすめです。この辺りはちょうど低速の制限がかかるため、写真撮影をするにも向いている場所です。
他にも、ビュースポットがあり、枚挙に暇がないほどです。上記の場所を押さえつつ、ぜひ、ご自身でも実際に乗ってみて、お気に入りのスポットを探してみて下さい。
青森県から秋田県へ入ると岩館駅へ到着。ここで列車とすれ違い。定期列車ではなさそうだなと思ってその列車を見てみるとなんとリゾートしらかみ号ではないか。この時期は走っていないと思っていたのですが、まさかの4月は毎日運転されていたようです。調べてみたらこの列車の2時間後にもリゾートしらかみ号が運転されていたようで、問題なく旅程に組み込めていたこともわかりました。リゾートしらかみ号は展望室や伝統芸能の実演、車内販売があるので、さらに旅が盛り上がったであろうに、なかなかもったいないことをしたものです。
隣のあきた白神駅を出発し、東八森駅付近を通過すると、少しずつ海を離れていきます。ここまで来ると五能線の旅も終盤に差し掛かります。花輪線乗車時に上流部分を見てきた米代川の河口付近を鉄橋で渡ると能代駅へ到着します。能代駅はバスケットボールのゴールがホーム上に設置されており、フリースローにもチャレンジできるようです。能代市はバスケの街ということでPRしており、これは市内の能代工業高校(現・能代科学技術高校)が全国大会で58回も優勝したという桁違いの強豪校の存在が由来しているようです。それにしても、ホームでバスケをしてボールが線路に落ちることはないのでしょうか。なかなか斬新な取り組みです。
能代を出発すると、次は終点の東能代。能代市の中心は能代駅付近にあるため、乗換駅である東能代駅との一区間のみを結ぶ列車が多く設定されています。逆に、その先は列車の本数が大幅に減るので、なかなか旅程が組みにくいところです。特に弘前から南下するルートの場合は通しで運行されるのはいま乗車しているこの快速列車のみ。途中駅で接続があっても、それなりに待たされることが多いのですが、そのデメリットを上回る絶景が五能線にはあります。ぜひ、乗車して見て頂きたいです。
【10:56発/11:45着】 特急「つがる」号で秋田へ
五能線の3時間50分の旅を終え、東能代駅へ到着。ここから奥羽本線で秋田へと南下します。東能代から秋田までは特急つがる号を利用します。この区間、普通列車に乗るとロングシートの車両にあたるので、特急車両に乗車できて一安心です。
東能代から秋田へ向かううえで特徴的な景色は八郎潟周辺の車窓。視界がほぼ水田だけというほどのだだっ広い田園風景が広がります。その向こうにはかつて八郎潟があり、琵琶湖に次ぐ国内第2位の面積を誇っていました。しかし、戦後の食糧不足を補うため、農地拡大の政策が打ち出されてから、八郎潟は干拓され、現在はその調整池が残るのみとなりました。その干拓地は22,024haに及び、干拓地はまるまる大潟村というひとつの自治体となりました。ちなみに、この大潟村は八郎潟の跡地にあるため、村全体が海抜0mよりも低いのだそう。もともとは湖だった場所の8割が干拓地化された場所で、そう思うと地形を変えてまでの開拓を行うという人間の執念のありようを感じてしまいます。
追分駅では男鹿方面から男鹿線が合流し、するとまもなく市街地が広がると、終点の秋田へ到着します。
東能代から約50分の道のり。あっという間の乗車でした。
【12:07発/13:59着】 羽越本線の普通列車でさらに日本海沿岸を南下して酒田へ
秋田へ到着後、今度は普通列車に乗り換えて羽越本線を南下して行きます。秋田駅での接続は21分とよいです。ただ、よすぎるが故に昼時にかかわらず、昼食にありつけないのですが、そこは我慢するしかないですね。
乗車するのは酒田行きの普通列車。羽越本線は電化路線ですが、東北地方の普通電車はロングシートの車両が多く、なかなか車窓が楽しみづらいのが難点。しかも、出発10分前で乗車した時点で、座席は1/3程度埋まっているので(平日日中の地方にしては乗っている方かと)、車窓を楽しむのはさらに難しいです。
と思ってはいたものの、ある程度人が乗っている状況は2駅先の新屋駅まで。この時点で全体の1/3程度が降りて空席が目立ち始めるようになりました。それと同時に市街地の景色から田園風景に景色が変わります。
待望の日本海が見えるのは桂根駅付近から。さらに進み、岩城みなと駅を過ぎたあたりから吹浦駅付近までは日本海のパノラマが断続的に望めます。
また、羽越本線は海だけではありません。金浦・象潟駅間の山側では田園地帯に浮かぶ小さな丘状のものを多数見ることができます。この一帯はもともと象潟という湖でした。そこには無数の小島があり、今でいう宮城県の松島のような風景が広がっていたそうです。なぜ湖がなくなったかというと、湿性遷移といわれるものが関係します。これは湖沼の中に水草などが生えて枯死したものが堆積し、水深が浅くなり湿原に変化。さらに植物の繁茂・枯死が重なることで水場がなくなり、裸地化するという現象です。象潟ではこの現象が進んだところに、象潟地震が襲来。これにより地盤が隆起したことで完全に湖が干上がり陸地となったというものです。一方で、この小島は昔に鳥海山の噴火した際に山体崩壊や土砂崩れが起こることによって小山が形成されたものです。松島ほど映えるものではないかもしれませんが、この地形が形成された経緯を知ることで大地の神秘的なものを感じることができるかもしれません。現在の象潟駅付近はにかほ市の市街地となっていますが、この辺りもかつては湖でした。車窓を見る限り、そんなことは想像にもつきません。
小砂川・女鹿駅間で、秋田県から山形県へ入ります。県境付近にある女鹿駅は通過。この列車に拘わらず、日中の時間帯のほとんどの列車がこの駅を通過していき、巷では秘境駅として知られています。
さて、海側では日本海の景色が断続的に広がっていましたが、吹浦(ふくら)駅を過ぎるとしばらく内陸に入ります。象潟に続いて山側では鳥海山を眺めることができます。吹浦・遊佐間では鳥海山が真正面に眺めることができ、この区間では一番迫力のある車窓が見られるようになります。鳥海山は標高2,236mの活火山。山頂付近に雪を被った姿が富士山に似ているということから、「出羽富士」とも呼ばれています。少し脱線しますが、羽越本線のほかにも、羽後本荘駅で乗り換えられる由利高原鉄道鳥海山ろく線からも鳥海山の車窓が眺められます。
庄内平野の田園風景から市街地に車窓が変わるとまもなく酒田駅に到着します。
【14:41発/16:01着】 特急「いなほ」号で村上へ
酒田駅からは特急いなほ号に乗車していきます。少し時間があるので、昼食をと思ったものの、事前に調べた限りではめぼしいお店はなく、あきらめてお土産を物色することに(そもそも接続時間が42分なのでお店で食事するには少し心許ない)。ここで何か駅弁がないかと期待していましたものの、そういった類のものはなく。。。NewDaysもありますが、目ぼしいものは特になかったので、昼食は諦めることとしました。この旅のルールで1日1回は必ずその土地の名物を飲食することを決まりにしているので、夕食へのプレッシャーが高まります。接続時間は少ないながらもがんばって秋田駅で駅弁を物色しておくのが正解でした。
それはともかく、特急いなほ号で酒田を出発。途中の村上まで乗車していきます。車両は元・常磐線「フレッシュひたち」号のE653系が使われています。お古とはいえ、スタイリッシュさとゆったりした空間を兼ね備えた良い車両だと思います。
酒田からしばらくは特に車窓右側に海は見えることなく、田園風景の背後に山が見えており、不思議に思っていたところ、線路は東寄りに進んでいるらしく、背後に見えているのは山形・新潟県境にそびえる山々であることがわかりました。この時、進行方向左側には先ほど見た鳥海山が見ることができます。
途中で列車は最上川を渡ります。これは第二最上川橋梁。この名称を聞いてピンとくる方もいるかもしれません。この鉄橋は2005年12月25日に発生した特急いなほ号の脱線・転覆事故の事故発生現場。これにより、5名が死亡、33名が負傷をした鉄道史上でも大規模な被害となりました。当時、現場最寄りの酒田の観測所では最大瞬間風速20mを観測しており、強風が吹く区間では徐行運転も行っていたところですが、ごく狭い範囲で風速40m以上の突風が吹き、不幸なことに列車はこの突風に巻き込まれてしまって起こった事故です。その後、JR側は書類送検されたものの、突風予測は不可能なものだったと判断され、不起訴となりました。事故後の対策として、JR東日本では「防災研究所」が設立され、全国のJRでは初とされる突風の観測が可能なドップラーレーダーを余目駅に設置するなど、一連の対策に100億円を計上したといわれています。
もちろん、鉄道会社には安全が第一に要求されますが、不採算路線が増えていく中、気候は激甚化していき、少し前の時代には想定がつかないような被害が発生することが度々起こりやすくなっています。その想定外に対して、どの程度の対策を立てていくか、という判断は結構難しく、地方を中心に利用者が減る中、このような対策にはコストがかかる一方のため、鉄道会社にとっては財政的になかなか厳しい状況であるといえるのかもしれません。
引き続き、内陸側を走り続け、山形第二の都市、鶴岡へ。酒田出発時点では座席は1-2割しか埋まっていなかったものの、鶴岡からの乗客が多く、窓側座席の半分程度が埋まるようになりました。
鶴岡を過ぎてもなお、田園風景が広がっていたものの、小波渡駅付近を通過すると、再度日本海が右手に姿を現します。その後は村上近辺まで断続的に日本海を眺め続けることができます。鼠ヶ関駅を通過直後に山形県から新潟県に入ると、日本海の特筆すべき見どころに近づいていきます。それが「笹川流れ」。今川・桑川駅間で車窓からその一部を見ることができます。海に面して奇岩が聳え立っており、そのスケールは街なかに建つ中層のビル並みに大きく、その迫力は少し遠目で見る車窓からでも伝わってきます。この区間はトンネルが点在しますが、合間をねらって写真撮影も可能です。
まもなく村上に着こうとしている頃。突然、列車の空調が止まり、列車内の照明が消えます。これは列車の電源方式の変更に伴うもの。電車は当然、電気で走りますが、その電源方式には直流と交流の2種類が存在します。村上の手前にはその電源方式が切り替わる区間があり、その境界付近は架線(いわゆる電線のようなもの)があるものの、保安上、電気が供給されない区間があるため、このようなことがおきます。ちなみに、安全上、列車の加速ができないので区間内で止まったら大変なことになります。
それでは酒田から乗車すること1時間20分、列車は本日の最終目的地、村上に到着しました。少し時間は早いですが、明日も予定上ネックになりやすい路線を使うため、本日の移動はここで終わりとします。
【19:00-19:30】 「千経」で村上名物、塩引き鮭を食す
ホテルでしばらく過ごした後、食事をしに夜の街へ繰り出します。今回訪問したのが、村上駅から徒歩10分のところにある「千経」さん。
和食と四川料理を提供するお店で少しレパートリーが変わったお店です。
店内は和風な趣で統一されており、カウンター席へ着席。夜時でしたが、見た感じ1名の常連さんがいらっしゃるのみ。
村上の名物は主に塩引鮭と村上牛であり、千経ではどちらも扱いがあります。特に村上牛はA5ランクのみのものを取り扱っているようです。ただ、村上牛はお値段が高く、手が届かなかったので、塩引鮭定食を注文。
塩引鮭は鮭の内臓とエラを取り除いたものを塩漬けし、軒先で干して作られる村上の名物。村上駅のホームでも鮭が干されている光景を目にすることができ、村上に来たらぜひ食していきたいソウルフードのひとつです。実際に食べてみたところ、鮭の旨味が凝縮されており、普段魚を好んで食べない筆者でもおいしくいただけました。ほかには味噌汁や漬物、小鉢が数品がつき、お値段は1,320円。財布にも優しくお手軽です。
四川料理もおいしいとのことで、大好物の麻婆豆腐を頼むか迷いましたが、組み合わせ的に、この塩引鮭の余韻をぶち壊しそうな気がしたので、今回は自重しました。機会があれば、四川料理の方も試してみたいです。
それでは本日の旅程はこれで終了です。
お疲れ様でした。
【YouTube】